会場に入って、最初に目に飛び込んできたのは福澤が用いた印章だ。
印章には、
三十一谷人(さんじゅういっこくじん)
と刻まれている。
これはどういう意味かというと、「世俗」の文字を分解したものだ。
ちょうど「米」を「八木」に分解したり、松平定信が自伝を書くときに、「定信」を分解して「宇下人言」としたのと同じ。
つまり「三十一谷人」という語は、無位無官を通して世俗にて「独立」した存在でいようとする、まさに彼の生き様の象徴なのだ。
これを今回の展覧会のオープニングにしたというのは、なかなか面白かった。